2017年 金沢大学 人間社会学域 入学試験問題 国語
「民衆という幻像」渡辺京二 筑摩書房
山本周五郎の小説を取り上げ、義理を論じた文章。周五郎を題材にする評論は珍しいので、読んでみました。
http://nyushi.nikkei.co.jp/honshi/17/kn1-31p.pdf
問題文の要旨
周五郎の小説の登場人物は、習俗としての義理人情に鋭い嫌悪と反発
「釣忍」の定次郎、おはん
義理人情的習俗にからまれて心にもない生きかたをしなければならないのがいや
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「信頼に対する呼応」
おはんの好意と信頼に応える定次郎ー習俗的規範としての義理よりも本質的なまもるべき義理
民衆ー人と人とのあいだに本質的な人倫の意味を保証する最低限の好意的基準
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誠、実、心中立て
「柳橋物語」
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民衆が抱きつづけてきた義理という夢の実体を明らかにしている
義理とはー自分の存在の根拠が深いところで照らし出されるとき成立する感覚
ある普遍的なものの触知感
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人生の功利的要素を拒否し、切り捨てることによってしか成立しない
義理は何に向けられるのか→あくまで特定の人間=つねにだれかへの義理、個別主義の立場に立つ倫理
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人と人とのあいだに成立する主情的な感覚=人間の共同性
普遍的なものー自他の共同性ー見果てぬ夢
人間の共同的な基礎の不在という事実→義理人情=幻の形ーメルヘン
最後の段落で、論理が飛躍している。
いきなり、義理人情は共同性への見果てぬ夢だという事実であると断定している。続いて共同的な基礎の不在という事実と繰り返す。
入試問題なので、文章の切り取られた方によって読みが変わってしまうことがある。
著者は、山本周五郎の小説を素材として、そこから思想なり、日本人の特質なりを抽出し分析している。
本来、小説は文芸作品として鑑賞するものだ。
小説をどう読むかは読者にゆだねられるが、周五郎の作品を客観的に、一つの完結した世界として読むべきであろう。
民衆という幻像: 渡辺京二コレクション2 民衆論 (渡辺京二コレクション(全2巻))
山本周五郎の作品のおすすめです。
柳橋物語・むかしも今も (新潮文庫)
さぶ (新潮文庫)
小説日本婦道記 (新潮文庫)
青べか物語 (新潮文庫)
未読ですが、面白そう
山本周五郎で生きる悦びを知る (PHP新書)